2012年1月23日月曜日

「700系ではなくなりますが。」



指定席予約変更は2回限りなのを
東海道新幹線当日カウンターで初めて知る

元日の少し凍える朝に荷物も持たず
アプリの予定時刻よりはやめに東京駅についた僕は
乗る列車を繰り上げ年頃の女子従業員が話すままに
赤い変更印字が押された切符を2枚受け取った

変更した列車はつくりが違い

数ヶ月前に乗った700系より随分古かったが
窓の外の薄曇りの空が拡がりはよく見えた
変更座席はドアから近くてもその開閉音は気にならず

快適なスタートだった。



数ヶ月前に訪れた僕に
父は食事をしながら言った

「結婚していなければ、生きている意味がないだろう。」

何度も聞いた内容だったが、噛み砕いてみると
その断定は親子でなければ、話さない内容だった。

妻や子供がある人はその背負う存在から
責任感が強まり果たす意味が増すことはわかる

おもんばかった言葉なのだろうか思わず口走ったそれは
まるでさばきたいがための言葉だった。



「楽しみにしててくれ。」


窓に映る自分自身が暗いトンネルの壁を背にして
スローモーションで唇を動かして言う。





人生いろいろだなどと言うのは他人に対して親切を装うその常で

否応無しに家族に渡さなければならない運命のバトンを
僕が引き受けて
自分自身をアンカーと決めたからには


ああ、そうさ。潔く走り切るさ










ネットのニュースでは関ヶ原付近の大雪のため
東海道新幹線が不通なことを伝えていた



外を見ると窓越しの目の高さにホームのコンクリートが横切る
グリーン座席の乗客は僕のほかには二、三人だけでその話し声さえも聞こえず
咳き込む音が天井にかすかに響いてくるだけだった

静かな車内ではポリ袋の乾いた音が響いて
青い紙の小さな箱を開けるとそこには柔らかいプリンの回りに
スライスしたキウイ ピーチブルーベリーが一粒。
プリン ア・ラ・モードがふたつ紙のガードに丸く包まれてあった。

彼女がどうして持って帰って食べて欲しいと言ったのか
鈍い僕はそのときようやく気が付いた。

そのプリンに乗ったカラメルソースが一緒に食べたかったと伝えていた


座席の前にテーブルを出して揺れで落とさないように慎重に取り出す
プラスチックのカップの端にMerry Xmasと書かれた
小さなチョコレートが添えられたその洋菓子は
甘くてほんの少し切なかった
そしてそのあまさはここしばらくずっと
あじわうことのなかったやさしさに包まれていた


12月の夕日は車内に真横に入りあまりにも明るく眩しく
僕の目にその光は差し込んできた

どうしてかまぶたの奥があたたかく
まつげに落ちるしずくでさらに夕日がまぶしくなった



彼女と初めて過ごしたXmasから時は過ぎ
文字通りその情景は
暗い窓を幕にした映像へと変わり

僕はそれを眺め続け
のぞみの轟音が消えると
その映像は掻き消え
トンネルの闇を抜け朝の空が窓に映った


その2011年はおわり2012年になっていた。














http://ja.wikipedia.org/wiki/新幹線700系電車