2012年2月5日日曜日

「このお店入ったことない。」





黄色くなり始めた芝が
なだらかにうねる公園の丘に広がっていた
初秋の風は僕の頬をかすかに撫でていた



僕はひとりで昼ごはんを食べなくてはならなかった
母が作ってくれたおにぎりは
しそのふりかけがまぶされたのがいくつかあった
いつもは、喜んでそのアルミ箔の包みを丁寧にあけるのだが
その日は開ける気にはならなかった。

仕方なく爪でアルミの包みを開けようとする


「ちょっとこっちにこいッ!」


喉の奥が熱くツンとなり始めたときヒビ先生が僕をきつく呼んだ。

「おまえ、人の弁当食べちゃうって本当か?」

「…。」

「ダメじゃないか、みんなに謝らないと、
ゴメンなさい、もうしないから一緒に弁当を食べてって
自分から頼むんだ。」




空は果てしなく青く
芝生は天と地の接し交わる線を境に
ゆるやかできれいな波を描き
風景は優しく僕を包み込んでいた


だが


遠足の目的地の長久手愛知青少年公園
半ズボンからのびたカサカサの膝小僧を
うな垂れて見るしかない僕は たった一人だった。








えー、本当?遅過ぎ遅過ぎ!何十年後?Mr.Smith。」

「だから、こないだ気づいたんだよ、オレいじめられてたんだよね
なんかガキ大将みたいなやついるじゃん、やつがさ、
先生にしらばっくれたんだよ、仲間はずれがバレないようにさ。
でも、そのときオレ弁当食べちゃったのかな?

 ってホントに自分疑ったんだよね。」









リニューアルしたその建物にあるカフェの冬の窓からは
多摩川の午後の日差しが眩しく射し込んでいた
髪をひっつめた彼女の小さな顔は逆光に遮られ
よく見えなかったが突然口をつぐみ
さっきまでの弾んだおしゃべりは掻き消え
まるでウソのように押し黙った。



冬の日差しはやがて真横から射し込んでその頬を照らすと
微かに光るすじが白い肌を濡らしていた
そのなみだはとまらなかった
ファンデーションの乱れを真横の人に
気づかれてもなぜだか彼女は
それを拭おうともしなかった




いつだったか実家にそのかつてのガキ大将から
小学校の同窓会の参加の連絡があり
彼は本当になつかしそうに気持ちを込めて
ぜひ連絡してほしいと伝えた事があったと聞いた



少年の僕は悲しく辛かったけど
数十年のときを経て
オヤジSmithにこんなにステキな
女神のやさしさを贈ってくれた
ありがとう、ヒノ少年。





「ChildSmith スゴイかわいい。」















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